大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和28年(ホ)21号 決定

被審人 朝日硝子工業株式会社

主文

被審人を過料百万円に処する。

手続費用は被審人の負担とする。

理由

被審人は硝子器具製造を目的とする資本金百五十万円の株式会社であるところ、昭和二十六年九月事業縮少による過剰人員整理の問題より従業員との間に紛議を生じ、これらの者があらたに結成した朝日硝子労働組合の組合長西橋勇を同年十一月八日に、同組合の執行委員平山幸吉を同年十一月九日に解雇した件につき、同人等より被審人を相手方として大阪府地方労働委員会に不当労働行為救済の申立を為し、右事件(同委員会昭和二十六年(不)第四十五号事件)につき昭和二十七年三月八日「一、被申立人は、申立人西橋勇、同平山幸吉を原職に復帰せしめ、かつ解雇より復職の日迄に同人らが得べかりし賃金相当額を支払うこと、二、被申立人は、申立人所属組合に対し、会社は組合幹部を解雇して組合の運営を阻害したことを陳謝すると共に、今後一切組合に対し支配介入しないことを確約するとの文書を手交すること、三、前二項は、本命令交付の日より七日以内に履行すること、」の命令を受けた。そこで被審人は大阪地方裁判所に対し右命令(行政処分)の取消を求める訴訟(同庁昭和二十七年(行)第九号事件)を提起したが、これに対し大阪府地方労働委員会は同裁判所に対し、労働組合法第二十七条第七項に基く仮の命令(いわゆる緊急命令)を求める申立を為し、同年六月二十七日同裁判所において「被申立人(本件被審人)は、当裁判所昭和二十七年(行)第九号不当労働行為救済命令に対する不服事件の判決確定にいたるまで、申立人が被申立人に対し昭和二十七年三月八日附書面をもつてした命令の全部に従わねばならない、」旨の決定を為し、この決定は同年七月七日被審人に送達せられた。

ところが被審人は右裁判所の決定(緊急命令)によつて命ぜられた前記労働委員会の救済命令に従うことなく昭和二十七年十一月十九日まで経過したので、同年十一月十三日及び昭和二十八年三月二日の両度に亘つて昭和二十七年十一月十九日までの違反行為につき過料(金三万三千円及び金三十万円)の制裁を受けたにも拘らず、昭和二十七年十一月二十日以降においても依然として右緊急命令の命ずる救済命令の内容を履行しないまま、昭和二十九年十月二十七日に至つたものである。

以上の事実は、本件記録中の大阪府地方労働委員会命令書謄本、緊急命令(昭和二十七年六月二十七日附大阪地方裁判所決定)写及び職権を以て調査したる当庁昭和二十七年(ホ)第八〇号、同年(ホ)第一〇五号各緊急命令違反事件の記録中に存する大阪地方裁判所書記官補金川昭三郎の回答書、同庁昭和二十七年十一月三日附及び昭和二十八年三月二日附各過料決定原本、昭和二十七年十月十日附被審人陳述書の各記載を綜合することにより明白である。そして被審人が初めに救済命令の交付を受けて以来、終始一貫、頑として、右救済義務の一部の履行すら肯じない理由の主たるものとしては、右救済命令が不当であつて承服し得ないこと、救済の相手方たる西橋、平山が生活に窮せず救済の必要がないこと、最近に至つては、被審人自体の事業の不振より一時に多大の未払賃金相当金(一ケ月につき西橋一万八千円、平山七千円)の支払を為す資力のないことに在ることは前顕各過料事件記録中の被審人代表者亀井健三に対する審訊調書の記載及び本件における右亀井に対する審訊(昭和二十九年十月二十七日施行)の結果に徴し明白であつて、以上の各理由はいずれも、前記救済命令がこれに対する取消訴訟において取消されることがない以上は、これに対する不遵守を正当化する法律上の事由となし得ないものというべきであるから、被審人は右の救済義務の不履行により正当の事由なくして前記緊急命令に違反したものといわねばならない。

しかしながら本件における証人浜田豊秀の証言及び被審人代表者亀井健三の審訊の結果に徴すれば、被審人会社は昭和二十八年半頃より経営に行詰りを生じ、剰え同年十一月火災によりその営業用建物の半ばを焼失し、爾来業態は急速に悪化して、昭和二十九年五月一般の支払を停止し、同年六月操業不能に陥り、従業員全員は自然退職の形にて離散し、会社の全資産は約一千五百万円に上る滞納租税のために差押えられ、一般債権者よりも破産の申立を受けている状況であることが認められるので、企業における従業員の地位を向上せしめるためにその団結の保障に奉仕する不当労働行為救済の意図は被審人会社に関する限りすでに殆どその基盤を喪失し、罰則の実行により今後その救済義務(特にその復職)の履行を強制することの期待の能否の点についても、また、過去の違反に対する制裁の負担能力点についても、前認定の事情は当然これを情状として斟酌しなければならないので、以上一切の事情を考慮した上、労働組合法第三十二条により被審人を過料百万円に処するを相当と認め、非訟事件手続法第二百七条に則り主文の通り決定する。

(裁判官 宮川種一郎 久米川正和 黒川正昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例